ハンヌ・ライアニエミ
アンケート回答その1
(2012年9月公開)
アンケート回答その2
(2012年10月公開)
アンケート回答その3
(2012年11月公開)
Q-1.
あなたのアイデンティティはどこの国/民族/文化にありますか?
A-1.
もう10年以上フィンランドには住んでいませんが、アイデンティティとしてはフィンランド人だと思っています。
Q-2.
SF/ファンタシイ/ホラー/スリップストリームといったジャンルはずっと英米語に支配されてきました。あなたがもっとも影響を受けたのは英米のジャンル小説ですか?
A-2.
そうです。ただ、第1作目の長篇小説では、意図的にフランス探偵小説などの影響もとりいれるようにしました。またWords of Birth and Deathという短篇集では、テーマをおもにフィンランドの神話からとっています。
Q-3.
英米小説とご自国の、あるいは非英語小説との読書の割合を教えてください。現在のものでけっこうです。
A-3.
簡単に手に入るならもっとフィンランドの小説を読むと思いますが、実際はそうはいかないので、5対1の割合で英米小説を多く読んでいます。
Q-4.
残念ながら多くのワールドなんとかは、じっさいにはアメリカのものです。野球のワールド・シリーズから、ぼくたちのジャンルのワールドコン(ぜんぶじゃないけれど)や世界幻想文学大賞にいたるまで。どうすれば、本来の枠組みにただせるでしょう、現実の無秩序な世界を反映するように?
A-4.
それはそのうち自然に変わっていくと思います。西洋文化の英米支配はあと20年ももたないでしょう。
Q-5.
たしかに、ぼくたちはアメリカのポップ・カルチャーの多大な影響を受けています。村上春樹もアメリカの小説やジャズの影響無しにはいまのような小説は書けませんでした。あなたの場合も同じでしょうか? そうした影響をまったく受けずに執筆することを想像できますか?
A-5.
想像することはもちろんできますが、たしかに英米SFの長い伝統がなければ、私の作品の大半はまったく別のものになっていたでしょう。それはそれとして、私が7歳のときに最初に影響を受けた作家は、英米SFの伝統に多大な影響を与えたジュール・ヴェルヌでした。
Q-6.
最近では多くの若い作家や編集者が英語で仕事をし、アメリカのマーケットに向けて書いています。そんな仕事のしかたは邪道だと思いますか? それとも、影響の大きさを思えば当然のことだと思いますか?
A-6.
邪道だとはまったく思いません――それはジャンル小説を取り巻く経済的現実です。
Q-7.
もし英語で書くことになった場合、それは英米の読者に向けた仕事ですか、それとも世界の読者に向けたものになりますか?
A-7.
私はまず自分という読者に向けて書くようにしているので、読者の文化的背景についてはあまり考えません。
Q-8.
地元の場で活躍している作家や作品で、世界の読者に心から推薦できるものがありますか? それは英米にはないタイプのものだからですか? それとも、英米にもぴったりで、ともに楽しめるものをたくさんもっているからですか? 独自性と親和性とどちらのほうがだいじだとお考えですか?
A-8.
すばらしいフィンランド人若手作家がたくさんいます。彼らに共通するのはおそらくフィニッシュ・ウィアードといわれる作風です――これはある種都会的な奇想に哲学の味つけをしたものです。名前を挙げるなら、Viivi Hyvönen、Pasi Jääskeläinen、Emmi Itärantaといった作家たちです。
私は、独自性と新鮮さはいつだって文化の垣根を越えていけるものだと思います。その作家に、語るべきユニークなものがあれば。古典にはそんな例がいくらでもあります。古くは『アラビアン・ナイト』からずっと。
Q-9.
ジャンルに関係なく、日本の小説を読んでおもしろかったものはありますか? どういった部分がおもしろかったのでしょう?
A-9.
先ほど名前が出た村上春樹と、そのすばらしく奇妙な人生観がとても好きです。彼の作品にはある種の哀愁が感じられ、それがフィンランド人のものの見方と共鳴するのでしょう。吉本ばななも好きです。
ジャンルものということなら、文学より漫画のほうがよく知っています。宮崎駿の『風の谷のナウシカ』と浦沢直樹の『20世紀少年』がいいですね。どちらの作品も非常に力強いキャラクターの登場する壮大な長篇物語で、もともとそういう話が好きなのです。
Q-10.
外国文学をあなたの地元の読者に、またあなたの地元の作品を外国の読者に広めるために、あなたはどんなことをしておいででしょうか?
A-10.
私の本には、文学の引用がたくさん出てきます。その中には英米の読者にとってはあまりなじみのないものもあります。こんど出版される私の2番目の長篇、The Fractal Princeには『アラビアン・ナイト』がかなり出てきますし、フリオ・コスタサルとヤン・ポトツキの物語への言及もあります。
(訳:高里ひろ)