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ラヴィ・ティドハー
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ラヴィ・ティドハー

アンケート回答その1

(2012年9月公開)

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アンケート回答その2

(2012年10月公開)

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アンケート回答その3

(2012年11月公開)

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Q-1.
あなたのアイデンティティはどこの国/民族/文化にありますか?

A-1.

 それはむずかしい質問だ! いまでもぼくは、第1義的にはイスラエルの作家としてのアイデンティティをもっているのだろうと思います。というのも、ぼくの関心も素材もおもにイスラエルで育ったことによるものだからです。第2には、ユダヤ人作家であり、それにともなう特別なオブセッションもあります――とりわけ、ぼくにかぎっては、それはホロコーストです。でも、ぼくには2重、3重のアイデンティティがあるんですよ。南アフリカ人でもあり、イギリス人でもあり、さまざまな場所で暮らして――意識的にも、無意識にも――そのすべてからちょっとした要素を身につけているのです。

Q-2.
SF/ファンタシイ/ホラー/スリップストリームといったジャンルはずっと英米語に支配されてきました。あなたがもっとも影響を受けたのは英米のジャンル小説ですか?

 

A-2.

 大きく影響を受けていると思いますが、こんな言い方が許されるとすれば、そこに向かって反応するというだけではなく、そこに背を向けてしまう反応も含めてということです。ぼくはたしかに英米SFのことをずっと意識しているけれど、同時にそのイディオムや、前提や、初期設定から離れたところで書こうとかなり根性入れてがんばっているんですよ。じつをいえば、ぼくにとっての二大影響はSFとクライム・フィクションで、とくにクライムのほうでは非英米様式の作品に大いに目を開かせてもらえるように思います。ジャンルなんて形式ですし、それを覆そうとしているときにだって、形式を意識していたほうがいいと思うな。

Q-3.
英米小説とご自国の、あるいは非英語小説との読書の割合を教えてください。現在のものでけっこうです。

 

A-3.

 ややこしい質問ばかりしてくるね! The Apex Book of World SFシリーズの編者として(いまは2巻目で、3巻目もできればいいと思っています)、もちろん、非英米圏の短篇もたくさん読んできましたよ。最近、おもしろいイスラエルの長篇も読んだし――歴史改変ものなんだ――こんにちのジャンル内で活躍しているいちばんのお気に入りはヘブライ語の長篇作家シモン・アダフ(Shimon Adaf)で、だんぜん最高の作家だと思っているけれど――英訳された初めての長篇が来年には出るはずなので、すごくわくわくしています。今年は意識的に英米のSF/ファンタシイの現状に追いつこうと努力中で、というのもここしばらく英米のシーンからは遠ざかっていたんです。おかげで、皮肉なことに英米SFが今年のぼくの読書の大半を占めています。去年だと違った答になっていたんですよ!

Q-4.
残念ながら多くのワールドなんとかは、じっさいにはアメリカのものです。野球のワールド・シリーズから、ぼくたちのジャンルのワールドコン(ぜんぶじゃないけれど)や世界幻想文学大賞にいたるまで。どうすれば、本来の枠組みにただせるでしょう、現実の無秩序な世界を反映するように?

 

A-4.

 すごくいやな感じがします。じつは、ぼくは今年の世界幻想文学大賞の長篇部門にノミネートされているのだけれど(非英米作品が候補になるのはとても、とても珍しいことです)、それでもあの名前は気になります。まあ、そうかんたんに名前が変わるとは思わないけど……チャールズ・タンとワールドSF賞をはじめようかと、いろんな機会に話してきたけれど、どっちも暇がなくて! 非英米圏の立場からアメリカ中心主義を是正する必要があるだろうし、World SF Blogはその一助になっていて、非英米のさまざまなコミュニティ間の対話の母体となっていると思います。進展は間違いなくしているけれど、時間がかかるんだ!


Q-5.
たしかに、ぼくたちはアメリカのポップ・カルチャーの多大な影響を受けています。村上春樹もアメリカの小説やジャズの影響無しにはいまのような小説は書けませんでした。あなたの場合も同じでしょうか? そうした影響をまったく受けずに執筆することを想像できますか?

 

A-5.

 ああ、もちろん無理ですね。作家は幅広く読まないといけないんです、誰も何もない虚無のなかで書いているわけじゃないから。でも、ぼくは自分のスタイルの小説を書こうとしていますよ、どれだけたくさんの映画が向こうで作られていようと、外国文化をまねすることはしないようにしています。

Q-6.
最近では多くの若い作家や編集者が英語で仕事をし、アメリカのマーケットに向けて書いています。そんな仕事のしかたは邪道だと思いますか? それとも、影響の大きさを思えば当然のことだと思いますか?

A-6.

 より広い読者を求めようとすれば、それは避けられない副産物だと思うな。ヘブライ語は好きだけど(南太平洋のバヌアツで使われる南太平洋“ピジン語”のビスラマ語も好きで、ぼくはしゃべれます)、英語のおかげで“向こうの連中”ともわたりあえるようになりました。ヘブライ語で書いたこともあるのだけれど――詩集が1冊に、長篇が1冊、短篇もいくつか――得られたものは――経済的にも、評判も――小さすぎて、それはもう完全に趣味でやることでしかなくなっています。ぼくが試みていることの1つに、ほかの作家に英語で出版させてあげることがあります。それだけでさまざまな門戸が開けるんです、そこから続いてほかの言語に翻訳されることもあります。


Q-7.
もし英語で書くことになった場合、それは英米の読者に向けた仕事ですか、それとも世界の読者に向けたものになりますか?

 

A-7.

 ぼくは自分のために書きます。喜んでもらいたくて書くことはないので、それはそれで問題ですが、得なこともあります。ぼくの長篇Osamaは今年多くの賞の候補になったけれど、その一方で――少なくとも――25の出版社から出版を断られました。妥協しなかったせいでもあるのでしょうね、想定される読者を喜ばせようとはしていませんでしたから。


Q-8.
地元の場で活躍している作家や作品で、世界の読者に心から推薦できるものがありますか?  それは英米にはないタイプのものだからですか? それとも、英米にもぴったりで、ともに楽しめるものをたくさんもっているからですか? 独自性と親和性とどちらのほうがだいじだとお考えですか?

 

A-8.

 そう、さっきシモン・アダフ(Shimon Adaf)にはふれましたね、まったくすばらしい作家です――来年PS Publishingから刊行される英訳版のSunburst Facesを見てください。たまにぼくと共著を出しているニル・ヤニフ(Nir Yaniv)もとてもおもしろい――ほとんどが短篇で、短篇集がそろそろInfinity Plus Booksから電子書籍で刊行されるはずです。それからやはり友人のガイ・ハッソン(Guy Hasson)も注目です。ノヴェラ3本からなる中篇集Secret Thoughtsがアメリカで出版されています。

 みんなそれぞれ違ったタイプの作家です――そのうち、ガイはいちばん伝統的なSF作家に近いけれど、シモンはいちばんイスラエル色の濃い作家で、ヘブライの伝統に深く根ざしていますし、ニルはむしろファビュリストで、その短篇にはユーモアの底流が強く感じられます。彼らの作品には異なる影響を見てとることもできます――アメリカのジャンルSFもあり、東欧の不条理主義もあり、初期のユダヤ作家や、聖書も。聖書はぼくたちみんなに影響しているように思います。だからみんな違うタイプだけれど、みんなおもしろい作家なんです!

Q-9.
ジャンルに関係なく、日本の小説を読んでおもしろかったものはありますか? どういった部分がおもしろかったのでしょう?

A-9.

 ええ、World SF Blogでも冲方丁のノヴェラを発表したばかりですからね。でも、それ以外に最近読んだものは日本の一連のクライム・ノヴェルで、大好きですよ――さっきもふれたように、非英米のクライム・ノヴェルには深く影響されています。形式や誰が殺人犯かということより、もっと人生の大きな問題を問いかけているので、大いに目を開かれる思いがします。日本SFはあまり読んでいないことを白状しなければならないけど――その点は是正しなければなりませんね。

Q-10.
外国文学をあなたの地元の読者に、またあなたの地元の作品を外国の読者に広めるために、あなたはどんなことをしておいででしょうか?

 

A-10.

ああ、World SF Blog(http://worldsf.wordpress.com)をやっていますし、The Apex Book of World SFの1を編んでいます。できれば3も編んでみたい! ワールドSFトラヴェル・ファンドもはじめて、非英米圏の若手作家に業界の主要な大会(ワールド・ファンタシイ・コンヴェンション)に参加する手助けをしています――去年はチャールズ・タンの旅費を出しましたし、今年はスウェーデンの作家を2人ほど支援していますし、来年もまたイギリスで開かれるワールド・ファンタシイ・コンヴェンションに2人の候補を連れていけたらと思っています。できることはやっているよ……

訳注 ファビュリストは通常、寓話作家と訳されるが、多くの場合は不条理小説を書く人という意味である。

(訳:小川隆)

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ラヴィ・ティドハー(Lavie Tidhar)は1976年生まれのイスラエルのSF作家。執筆はほとんど英語で、ノヴェラGorel and the Pot Bellied Godで2012年の英国幻想小説賞を受賞したほか、多くのSF賞の候補に繰り返し選ばれている気鋭の新人である。邦訳は「ストーカー・メモランダム」(小川隆訳)が〈SFマガジン〉2012年7月号に掲載されている。

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