ジャック・ダン
アンケート回答その1
(2012年9月公開)
アンケート回答その2
(2012年10月公開)
アンケート回答その3
(2012年11月公開)
Q-1.
あなたのアイデンティティはどこの国/民族/文化にありますか?
A-1.
私は20年ほど前にアメリカを離れ、それ以来オーストラリアで暮らしていますが、今でも自分は文化的にはニューヨーカーだと思っています。
Q-2.
SF/ファンタシイ/ホラー/スリップストリームといったジャンルはずっと英米語に支配されてきました。あなたがもっとも影響を受けたのは英米のジャンル小説ですか?
A-2.
特に影響が大きかったのは英米のジャンル小説ですが、ジャンル外の作品(英米、ヨーロッパその他)の影響も負けず劣らず大きいです。
Q-3.
英米小説とご自国の、あるいは非英語小説との読書の割合を教えてください。現在のものでけっこうです。
A-3.
ちょっと答えにくい質問ですね。というのも、私は今ルネッサンス期イタリアを舞台とする小説を準備中で、資料としてノンフィクションや詩をたくさん読んでいるんです。ラテン語やイタリア語、古代ヘブライ語やアラム語(作品の一部がパレスチナを舞台とするため)から翻訳されたものもあります。割合としては、8対2といったところでしょうか。
Q-4.
残念ながら多くのワールドなんとかは、じっさいにはアメリカのものです。野球のワールド・シリーズから、ぼくたちのジャンルのワールドコン(ぜんぶじゃないけれど)や世界幻想文学大賞にいたるまで。どうすれば、本来の枠組みにただせるでしょう、現実の無秩序な世界を反映するように?
A-4.
まさにそれをオーストラリアで実感しました。自作The Silentを“内戦小説”と紹介したときなのですが、自分としてはアメリカの内戦(=南北戦争)のつもりが、オーストラリア人が真っ先に思い浮かべたのはイングランド内戦だったんです。問題は、アメリカ文化があまりに広く行きわたっているために、多くの人がそれを世界の文化とみなしがちなことなのでしょう。他の文化はもっと自分たちの“言葉”を届けていかなければならないと思います。あなた方がこのインタビューを通じてしているように。
Q-5.
たしかに、ぼくたちはアメリカのポップ・カルチャーの多大な影響を受けています。村上春樹もアメリカの小説やジャズの影響無しにはいまのような小説は書けませんでした。あなたの場合も同じでしょうか? そうした影響をまったく受けずに執筆することを想像できますか?
A-5.
率直に言って、想像できません。私は人生の大半をアメリカで過ごしてきたので、そのことが書き方にもしゃべり方にも、そしてある意味では考え方にも影響しています。それでも、The Memory Cathedralなどいくつかの作品は、世界的な観点で書かれていることが容易に見てとれると思います。
Q-6.
最近では多くの若い作家や編集者が英語で仕事をし、アメリカのマーケットに向けて書いています。そんな仕事のしかたは邪道だと思いますか? それとも、影響の大きさを思えば当然のことだと思いますか?
A-6.
私自身は1言語しか使えないので――それに母語が英語ですから――この質問にはコメントしにくいのですが、電子書籍によって市場の仕組みが変わってきているのは確かだと思います。ちょっとわがままを言わせてもらえば、私は自分の作品をできるだけ多くの言語で入手可能にしたいと思っています。その点に関して電子書籍に何ができるかは、まだ未知数ですが。
Q-7.
もし英語で書くことになった場合、それは英米の読者に向けた仕事ですか、それとも世界の読者に向けたものになりますか?
A-7.
先ほど触れたように、私は英語で執筆しますが、つねに世界の読者を想定しています。どんな作家もそうでしょうが、できるだけ多くの読者に作品を届けたいのです。
Q-8.
地元の場で活躍している作家や作品で、世界の読者に心から推薦できるものがありますか? それは英米にはないタイプのものだからですか? それとも、英米にもぴったりで、ともに楽しめるものをたくさんもっているからですか? 独自性と親和性とどちらのほうがだいじだとお考えですか?
A-8.
知り合いで、素晴らしい作品を書くアメリカやイギリスやオーストラリアの作家ならいくらでも紹介できます。でもこれらの作家は英語で執筆していますから、ほぼ英/豪!/米シーンの作家ということになります。問題は、他言語で執筆する作家の翻訳とマーケティングが不十分なことにあると思います。そうした作家の作品が英語の本と同じくらい手に入りやすいのであれば、私も間違いなく興味を抱いているでしょう。
Q-9.
ジャンルに関係なく、日本の小説を読んでおもしろかったものはありますか? どういった部分がおもしろかったのでしょう?
A-9.
お恥ずかしいことですが、これといって挙げられません。
Q-10.
外国文学をあなたの地元の読者に、またあなたの地元の作品を外国の読者に広めるために、あなたはどんなことをしておいででしょうか?
A-10.
Dreaming Down-Under(妻のJaneen Webbと共編)やその続篇Dreaming Againといったアンソロジーを通じて、オーストラリアの小説を(少なくとも)他の英語圏に紹介してきました。
(訳:志村未帆)
ジャック・ダン(Jack Dann)は1945年生まれのアメリカのSF作家。ガードナー・ドゾワらとともにポスト・ニューウェーヴの旗手として期待され、「ブラインド・シェミイ」(『80年代SF傑作選〈上〉』所収)などを発表するかたわら、アンソロジーの編集でも高い評価を受け、『魔法の猫』の動物テーマのシリーズは翻訳もされている。1994年にのちに結婚するジャニーン・ウェブが住むオーストラリアに移住、以後小説執筆のかたわらオーストラリアSFの紹介普及につとめ、Dreaming Down-Underおよびその続篇Dreaming AgainというオーストラリアSFのアンソロジーを編んでいる。