ユン・ハ・リー
アンケート回答その1
(2012年9月公開)
アンケート回答その2
(2012年10月公開)
アンケート回答その3
(2012年11月公開)
Q-1.
あなたのアイデンティティはどこの国/民族/文化にありますか?
A-1.
わたしはアメリカ人としてのアイデンティティを持っており、継承しているのは韓国人の祖先からのものです。
Q-2.
SF/ファンタシイ/ホラー/スリップストリームといったジャンルはずっと英米語に支配されてきました。あなたがもっとも影響を受けたのは英米のジャンル小説ですか?
A-2.
SF/Fを書きはじめた頃は、もっぱら英語で書かれた西洋圏のSF/F作品から影響を受けていました。とはいっても、ずっとそこから遠ざかろうとしてきました。流暢に話せるのは英語だけなので(残念なことですけれど)、わたしが読むSF/F作品の大半は、舞台も外観も多くは西洋的なものでしたし、それらを模倣することで学んできました。最近は、韓国の歴史や文化から、より多くの材料を引きだそうと努めています。とはいっても、未来の歴史、あるいはあり得たかもしれない歴史ではなく、セカンダリー・ワールドを舞台にして書きこんでいるので、読者にはそういう風に見えないかもしれませんが。
(この文脈で“英米”という言葉が何を意味するのかわからないので、わたしは“西洋”という言葉を使います。)
Q-3.
英米小説とご自国の、あるいは非英語小説との読書の割合を教えてください。現在のものでけっこうです。
A-3.
実のところ、いまはもう小説をあまりたくさん読まなくなりました。答えられるのはそれだけです。読むとしたら、ほとんどは西洋のSF/F作品と、英語に翻訳された漫画がすこしです。最近読んでいるものはもっぱら軍事史ものか、その他のノンフィクションです。
Q-4.
残念ながら多くのワールドなんとかは、じっさいにはアメリカのものです。野球のワールド・シリーズから、ぼくたちのジャンルのワールドコン(ぜんぶじゃないけれど)や世界幻想文学大賞にいたるまで。どうすれば、本来の枠組みにただせるでしょう、現実の無秩序な世界を反映するように?
A-4.
はたして上から変えようとしてもうまいやり方があるのかどうかわかりません(そもそも、これを解決するのに上から変えていくのがいいのかどうかも)。わたしは頻繁に大会に出席する方ではありませんし、賞は気にしないというポリシーを持っています。誰かが何かの目的でメールに書いてくる場合を除いてですが。この質問に関しては、きっともっと事情に通じた人がいると思います。
Q-5.
たしかに、ぼくたちはアメリカのポップ・カルチャーの多大な影響を受けています。村上春樹もアメリカの小説やジャズの影響無しにはいまのような小説は書けませんでした。あなたの場合も同じでしょうか? そうした影響をまったく受けずに執筆することを想像できますか?
A-5.
わたしが書くものすべては、何かしらわたしが接するものから影響を受けています。わたしはアメリカに住んでいるアメリカ人です。ここはわたしの故郷なのです(たとえ完全無欠ではないとしても)。アメリカ文化がわたしの作品に浸透しているのは当然のことです。たいせつなのは、わたしの作品にあらわれているものが唯一それだけである必要はないという点でしょう。
Q-6.
最近では多くの若い作家や編集者が英語で仕事をし、アメリカのマーケットに向けて書いています。そんな仕事のしかたは邪道だと思いますか? それとも、影響の大きさを思えば当然のことだと思いますか?
A-6.
わたしの場合、英語で執筆することが唯一の実際的な選択肢です。次に流暢なのはフランス語ですが、フランス語で小説を書いてみようとは思いません。なにしろ習ったのは高校時代のことですから。ましてや、以前、韓国語で書いてみたファンタシイ短篇のことなど、お知りになりたくもないでしょう(わたしの韓国語会話はまったく冴えないもので、スペリングとなると目も当てられない代物なのです)。率直に言えば、わたしは英語が好きなのです。ときに詩的なレベルまで操れるこの言語に愛着を持っています。英語に問題がないというわけではありませんが、この手に馴染んだ道具なのです。
わたしはアメリカのマーケットに向けて発表しています。その理由は、自分が事情によく通じているところだからであり、マーケットもわたしが送り出すものを喜んで買ってくれているようだからです。
Q-7.
もし英語で書くことになった場合、それは英米の読者に向けた仕事ですか、それとも世界の読者に向けたものになりますか?
A-7.
必然的に、英米の読者に向けてになります。作品に(たとえば)韓国語を織り交ぜ、たまたまそれを手に取った韓国語話者に語りかけるようなこともするでしょうけど。“Eating Hearts”という作品には虎に変身するHorangaという名前の人物を登場させていますが、それは韓国語で虎を意味する“horangi”(ホランイ)からとったものです。深い意味はありませんが、楽しいアイデアだと思います。
韓国の歴史や民話を題材にした作品を書くときは、実際の読者(おそらく主としてアメリカ人だと思いますが、ウェブで公開しているものについては、そうとは限らないかもしれません)にとって馴染みのある題材ではないということを忘れないようにしています。だからそれらを使うときには、読者を惑わせないように、じゅうぶんなコンテクストを用意するよう心がけます。必ずしも成功するわけではありませんが、つねに心に留めています。アメリカ以外の読者に向けて書こうと、意識的な努力はしていません。自分が属してしているちっぽけな世界の一隅を把握するだけでも精いっぱいなのです。アメリカ以外の読者の関心を探るなんて、わたしの能力の限界を越えています。
Q-8.
地元の場で活躍している作家や作品で、世界の読者に心から推薦できるものがありますか? それは英米にはないタイプのものだからですか? それとも、英米にもぴったりで、ともに楽しめるものをたくさんもっているからですか? 独自性と親和性とどちらのほうがだいじだとお考えですか?
A-8.
わたしはルイジアナに住んでいます。ここには他にもSF/Fの作家はいるのでしょうが、わたしは作家がどこに住んでいるかという情報に疎いのです。ですから、この質問への回答は控えさせてもらいます。
“独自性”と“親和性”という考え方は、わたしにとってさほど意味を持たないような気がします。人が何を読むべきか、指図する立場にはありません。ここ最近、わたしが小説を読むときは、手っ取り早い娯楽性を求めます。できれば大きな衝撃が用意されていて、それがぴったりの場所で起きるものがいいです。
Q-9.
ジャンルに関係なく、日本の小説を読んでおもしろかったものはありますか? どういった部分がおもしろかったのでしょう?
A-9.
漫画が含まれるなら、答はイエスです。村上春樹の作品も読んだことがありますが、内容はさっぱり理解できなかったと思います。漫画はSF/F系の作品も読みますが、コメディあるいはロマンティック・コメディ系の作品も読みます。魅力的な絵のものが多いです。でも残念ながら、展開について論じる語彙は貧弱なのです。ちょうどいま読んでいるのは『夢喰見聞』で、これは心理系ミステリの一話完結型の作品です。でもどちらか選べるとしたら、たいていは漫画を読むよりアニメ版を観ます。アクションシーンをコマ割りでたどっていくのが得意ではないので。
Q-10.
外国文学をあなたの地元の読者に、またあなたの地元の作品を外国の読者に広めるために、あなたはどんなことをしておいででしょうか?
A-10.
ブログに最近読んだ漫画について書くことがあります。でも、それはプロモーションには含められないでしょうね。何がよくて何がよくなかったか、気軽に書いているだけですから。原則として、深く切り込んだ体系的なレビューは書きません。でも、何ごとについても、あくまでも深く切り込んだ体系的な評論はしないことにしているのです。わたしの目に止まったものについて気さくにお喋りする、たんなるブログにすぎませんから。
(訳:鈴木潤)
ユン・ハ・リー(Yoon Ha Lee)は1979年生まれの韓国系アメリカ人作家。数学を専攻するかたわらSF短篇を執筆し、〈F&SF〉誌1999年2月号掲載の“The Hundredth Question”でデビューする。2013年に初の短篇集Conservation of ShadowsがPrime Booksから出版される予定。