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ローレン・ビューカス
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ローレン・ビューカス

アンケート回答その1

(2012年9月公開)

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アンケート回答その2

(2012年10月公開)

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アンケート回答その3

(2012年11月公開)

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Q-1.
あなたのアイデンティティはどこの国/民族/文化にありますか?

A-1.

 私は南アフリカ共和国人としてのアイデンティティをもっています 。以上――と、本当はそのひと言で終わりにしたいんですが。でもきちんと説明すると、私は英語話者であり、アフリカーナーの子孫であり、白人女性であり、そして――これはわたしのアイデンティティが背負いつづける事実なのですが、アパルトヘイトというおぞましい人種差別体制と、その後遺症を引きずっている国で育ってきました。

Q-2.
SF/ファンタシイ/ホラー/スリップストリームといったジャンルはずっと英米語に支配されてきました。あなたがもっとも影響を受けたのは英米のジャンル小説ですか?

 

A-2.

 幅広くいろいろなものを読んでいます。グレッグ・イーガンからジェニファー・イーガンまで、あるいはアラン・ムーアからローリー・ムーアまで。おもに影響を受けたのは英米作家の作品です。マーガレット・アトウッド、ウィリアム・ギブスン、ジョイス・キャロル・オーツ、T・C・ボイル、デイヴィッド・ミッチェル、ジェフ・ヌーンなどです。最近はパトリック・ネスやグレン・ダンカン、デニス・ルヘイン、ラヴィ・ティドハー、ジュンパ・ラヒリ、クリストファー・プリースト、それからブラジル人のFábio MoonとGabriel Báのコミック、Daytripperがお気に入りです。

Q-3.
英米小説とご自国の、あるいは非英語小説との読書の割合を教えてください。現在のものでけっこうです。

 

A-3.

 今現在の割合はちょっと偏っているかもしれません。というのも、新しい長篇のリサーチのためにシカゴに関する本を集中的に読んでいるところだし、Vertigo(アメコミ専門のインプリント)から発表するコミックのために日本文学も読んでいるので。この漫画には東京を舞台にしたエピソードや、日本のおとぎ話を下敷きにしたエピソードもあるんですよ。それから、作家仲間の新作の原稿も読んでいます。目を通して、推薦文を書いたり、出版時にあちこちで話して宣伝してくれないかって頼まれているので(ちなみに一番最近のものは、コンゴ難民の作家、Jamala Safariの The Great Agony and Pure Laughter of the Godsという本で、これは少年兵士について書かれた、温かくておかしみがあって感動的な、すばらしい作品でした)。つまり、今のところかなり広範囲にわたっているんです。でもおそらく、一般的な割合は英米作家の作品が80%、南アフリカの作品が15%、その他が5%というところでしょうね。やはり私が英語話者であり、他の言語のすばらしい作品が英語に翻訳されていないということが大きいです。

 

Q-4.
残念ながら多くのワールドなんとかは、じっさいにはアメリカのものです。野球のワールド・シリーズから、ぼくたちのジャンルのワールドコン(ぜんぶじゃないけれど)や世界幻想文学大賞にいたるまで。どうすれば、本来の枠組みにただせるでしょう、現実の無秩序な世界を反映するように?

 

A-4.

 難しい質問ですね。アメリカ文化の影響は大きいです。私たちはアメリカのテレビやコミックや映画に囲まれて育ってきました。方法としては、やっぱり露出していくことではないでしょうか。他の国の考え方や文化を、小説、映画、漫画、ポップミュージックを通してじわじわとアメリカに紹介していくんです。インターネットの普及でそれが可能になってきましたよね。私は90年代にアニメの海賊版を共有するクラブに入っていました。だって、それ以外に入手方法がなかったんです。そこで『パーフェクトブルー』や『妖獣都市』といった日本アニメをVHSテープにダビングしたものです。今じゃオンラインで何でも注文できるし(もちろんちゃんと代金を支払って!)、おなじ趣味の仲間が集るコミュニティだってすぐに見つけられます。


Q-5.
たしかに、ぼくたちはアメリカのポップ・カルチャーの多大な影響を受けています。村上春樹もアメリカの小説やジャズの影響無しにはいまのような小説は書けませんでした。あなたの場合も同じでしょうか? そうした影響をまったく受けずに執筆することを想像できますか?

 

A-5.

 その影響は深くしみこんでしまっていますね。それはもう自分が何者か、世界とは何かということの一部であって、無視することはできません。Zoo Cityを発表して感じたのは、英米の読者は新しい考え方に対してとてもオープンだということです。だからこそ、あの作品には大きな反響があったのです。舞台はロンドンやLAやニューヨークといったおきまりの場所ではありません。ヨハネスブルグという舞台は彼らにとって風変わりで異質で、でも理解不能ではない場所だったのです。

Q-6.
最近では多くの若い作家や編集者が英語で仕事をし、アメリカのマーケットに向けて書いています。そんな仕事のしかたは邪道だと思いますか? それとも、影響の大きさを思えば当然のことだと思いますか?

 

A-6.

 私は英語で執筆していますが、たしかに、そこに最大のマーケットがあるのは事実でしょうね。もし私がフランス人やベトナム人やガーナ人だったら、そのことにもっと反発を覚えていたかもしれません。でもそれ以前に、作家は何よりも自分の作品を多くの人に読んでほしいし、多くの目に触れるところに届けたいと思うものです。その場所が、現状では英米圏の出版界だということではないでしょうか。

 実は次の2作はアメリカが舞台です。商業的な理由からではなく(そのおかげでうまくいったことはたしかですが)、アメリカを舞台にする必然性があったからです。

 The Shining Girlsはシカゴが舞台のタイム・トラベル・シリアル・キラーものです。歴史と、そのなかで世界がどういう風に変わってきたかを描きたかったんです。南アフリカを舞台にしたら、どうしてもアパルトヘイトの物語になってしまいます。私はシカゴに住んだことがあるし、そこには人種の壁や貧困、犯罪、都市部と農村部の衝突など、ヨハネスブルグやケープタウンと共通する問題がありました。だから、ふさわしい舞台だと思ったんです。

 Broken Monstersは都市の夢と潜在意識を描いた作品です。私はずっとデトロイトに興味を持っていました。そこはアメリカン・ドリームの発祥地であり、終焉の地でもあるんです。荒廃した土地、見捨てられた機械、静まりかえった工場、そして時代に取り残された人々など、想像上で再構築する材料には事欠きません。

 でも、アメリカを舞台にした作品を書くことは、私がアメリカナイズされた作家になってしまったとか、もう国内での活動はしないということではありません。現に、南アフリカを舞台にした小説やコミックの構想も練っています。たとえば、“ヨハネスブルグ・ウェスタン”、そしてアパルトヘイトをテーマに悪の本質を描く作品や、奇想天外な神話世界の200年の歴史を描く冒険物語です。


Q-7.
もし英語で書くことになった場合、それは英米の読者に向けた仕事ですか、それとも世界の読者に向けたものになりますか?

 

A-7.

 Moxylandは南アフリカの読者に向けて書いたものです。まずは読者をデフォルメされた未来のケープタウンに放りこみ、読み進めていくうちに全容がわかっていくという仕組みです。その作品にはスラングや翻訳不可能な概念もまじえていました。イギリスとアメリカがベースの出版社である版元のAngry Robotと契約を結ぶことになったとき、インターナショナルな読者を想定しはじめました。そして生まれたのがZoo Cityです。

 大幅に譲歩したというわけではありませんが、スラングやアフリカーンスやズールー語を使うときには、他言語の読者でも文脈から意味を類推できるように気を遣いました。作家は読者の理解力をもっと信頼してよいと思っています。


Q-8.
地元の場で活躍している作家や作品で、世界の読者に心から推薦できるものがありますか?  それは英米にはないタイプのものだからですか? それとも、英米にもぴったりで、ともに楽しめるものをたくさんもっているからですか? 独自性と親和性とどちらのほうがだいじだとお考えですか?

 

A-8.

 断然、独自性を重視します。私が小説に求めるのは、聞いたことがないような話を聞かせてくれること、それを信じさせてくれることです。

 南アフリカの小説の興味深いところは、チックリットからホラーにいたるまで、どんなものにも社会的問題意識が織りこまれていることです。これは自分が何者か、どんな場所にいるかということの反映です。私たちは日常的に触れている現実問題から目をそむけることはできません。そこに描かれる社会は、とりもなおさず、よその世界がかかえている問題をも取りこんだ、世界の縮図なのです。おすすめはS.L. Greyの三部作、The MallThe WardThe New Girlです。消費主義と、管理者側の人間がおぞましいヒエラルキーを築く歪んだ地下世界を描いた、最高に新鮮でオリジナルな作品です。

 それから、Lily HerneのYA、ゾンビ黙示録シリーズのMallratsも大好きです。2010年ワールドカップの10年後という設定で、おなじく社会問題と消費主義を、スマートで斬新なスタイルで描いています。

 来年刊行のCharlie HumanのApocalypse Now Nowは、かなり奇想天外なアーバンファンタジーです。官僚主義的な学校や政治家を痛烈に風刺していて、コイサン族の伝説からヒントを得た世界破壊をもくろむカマキリ・メカ、モンスターを作り出す人種差別主義者の化学者、そしてゾンビのストリッパーなんてものが出てきます。本当、最高にオリジナリティに溢れた作品です。

 デオン・マイヤーのスリラーもすばらしいです。犯罪とずさんな体制に振りまわされる警察の姿を描き、南アフリカの現実に迫っています。

 ジャンル外だと――Jamala SafariのThe Great Agony and Pure Laughter of the Godsはコンゴの少年兵士を鮮烈に描いた人間ドラマです。作者はコンゴ難民で、4番目の言語である英語でこの作品を書きました。

 Zukiswa WannerのMen of the Southはアフリカにおける男性性というテーマを扱った作品です。Sifiso Mzobeの作品(Young Blood)はきちんと事実に基づいて都市犯罪を描いています。

 男性性と宗教を扱ったThando Mgqolozanaの作品、Siphiwo Mahalaのすばらしい短篇集もおすすめです。ヨハネスブルグの中心街の野心的な青年たちを描いたKgebetli MoeleのRoom 207はお気に入りのひとつです。都会で追う夢が、やがて悪夢に変わっていくという物語です。

 Henrietta Rose-InnesとDiane Awerbuckの作品は美しくて、かつエッジの効いた夢幻的なリアリズムです。Ivan Vladislavicはたぶん、今のところ南アフリカの作家の筆頭にあげられる人でしょう。

Q-9.
ジャンルに関係なく、日本の小説を読んでおもしろかったものはありますか? どういった部分がおもしろかったのでしょう?

 

A-9.

 日本文学はカルト的なところまで読みました。吉本ばなな、村上春樹、山田太一、エンターテイメントだと桐野夏生、村上龍、鈴木光司などです。とてもそそられました。琴線に触れるようなものもあれば、刺激的な違和感があるものもあったし、おもしろいアイデアや革命的なアイデア、あるいはとことん美しい文章のものなど。私が常日頃、追い求めているものが詰まっていました(実はいくつかは、Vertigoに書いていたThe Hidden Kingdomという〈妖怪ヤクザ漫画〉のリサーチのために読んだんですけど)。最近、おすすめ漫画のリストを手に入れたところで、チェックするのを楽しみにしているんです。

Q-10.
外国文学をあなたの地元の読者に、またあなたの地元の作品を外国の読者に広めるために、あなたはどんなことをしておいででしょうか?

 

A-10.

 アーサー・C・クラーク賞を受賞したことが大きかったです! あとは、信用があって精力的なエージェント(ロンドンのBlake Friedmann)と契約していることでしょうか。熱心に海外に売りこんでくれますから。

 ブロガーやポッドキャストの提供者、海外のメディアともコンタクトを取っています。パキスタンのラジオ局からスウェーデンのエレクトリック・ミュージックファンまで、世界じゅうの様々な人が、ウェブサイトやツイッターを通して私に注目してくれているんです。

 それから、自分の本に絡めていろんなおもしろいことを仕掛けています。楽しいですよ。アーティストに頼んでZoo Cityにインスパイアされたビニールのおもちゃを作ってもらい、チャリティーオークションに出したこともあります。ケープタウンの音楽レーベル、African Dope Recordから小説のオフィシャル・サウンドトラックを出したことも。おもしろいし、作品のまわりが活気づきます。

(訳:鈴木潤)

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ローレン・ビューカス(Lauren Beukes)は1976年生まれの南アフリカのSF作家、漫画家。2010年のZoo Cityでアーサー・C・クラーク賞を受賞し、一躍注目された。これは映画化も企画され、邦訳も出る予定だ。創作活動のほか、ジャーナリスト出身らしく南アフリカの文学から漫画まで幅広い文化の紹介、普及にもつとめている。

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